音の記憶 第2回 バロックに「ロック」な風景を:ヴィヴァルディの「四季」

アントニオ・ヴィヴァルディ(1678-1741)
バロック時代における協奏曲形式の完成者といわれる。ヴェネツィアのピエタ慈善院付属音楽院にて音楽を教え、「赤毛の司祭」という呼び名で知られるが、実際に聖職者でもあった。

今回は長いです。これから先は分かりませんけど(笑)。

さて、「音の記憶」で最初に取り上げる曲は、ヴィヴァルディの「四季」です。いきなりこれかよ!と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ストレートすぎて、自分でも若干恥ずかしい。

でも好きなんです、この曲。何度聴いても飽きない。新しい録音を見つけると、つい聴いてしまう。

かくいう私もヴィヴァルディ全般をバカにしていた時期がありました。同じテクニックを使い回してるだけじゃん!みたいな。でも、大学の講義で聴いた古楽アンサンブルのイル・ジャルディーノ・アルモニコ(Il Giardino Armonico)による「四季」の演奏を聴いて、曲のイメージがガラッと変わりました。

「ヴィヴァルディってこんなにロックだったのか!?」

私の演奏仲間の間でも、「実は俺もヴィヴァルディ好きなんだけど」とか「ヴィヴァルディってロックだよね」と言うひとも多く、ことさら斬新な意見ではないと思うんですけど、騙されたと思って「冬」の出だしを聴いてみてください(ページ下にリンク有)。静謐だけと不穏なタメを作っておいて、突然炸裂する縦ノリの低音部!

講義で聴いたのもまさにこの部分で、自分は今まで「四季」何を聴いてきたのだろう?と唖然としてしまいました。これをきっかけに古楽アンサンブルの録音を聴いていくと、今までに気づかなかった音が活き活きと再現されていました。鳥の声、夏の嵐、収穫祭の踊り、橇の走る音、などなど。

ところで、クラシック音楽に関して「同じ曲なのになぜいくつもの異なる録音があるのか?」という疑問をお持ちの方も多いかと思います。これはこのジャンルを知るうえでとても重要なポイントで、現在多くのポップス曲が演奏者と作曲者が一致している、あるいは特定のアーティストのために書き下ろされたオリジナル曲が演奏される環境に比べて、曲の「作者」が分かりにくいという状況を作っている。真の作者は作曲家なのか、パフォーマーなのか?

結論から言うと私は両方だと思いますし、作品と演奏者、双方の個性によって相乗効果が生まれるところがクラシック音楽の醍醐味だと確信しています。ところが、その違いが微妙すぎて大方のリスナーには「どれも一緒」に聴こえてしまう…。

本コラムの最初に「四季」を取り上げたのは、まさにこの問題について言及したかったからで、演奏者によってこれほど曲の解釈がドラマチックに変化した例も珍しいのです。論より証拠、まずは以下の二つの録音を比べてみてください。

① ベルリンフィルハーモニー管弦楽団 ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮

② イル・ジャルディーノ・アルモニコ

いかがでしょうか?同じ曲なのに音色からテンポ感から雰囲気まで何から何まで違うのがお分かりいただけたでしょうか。①はクラシックの王道ともいうべき、調和のとれた美しい演奏ですね。悪く言えばお行儀が良い。②はどこか歪(いびつ)で野蛮(ロック)な感じです。でもヴィヴァルディが工夫を凝らして描いた冬景色がビビッドに表現されていると思います。

ここで付け加えたいのですが、もちろん正しい解釈というものはありません。①のほうがしっとりしていて好きであっても構わないし、②のほうがカッコいい!という意見でもオッケーです。その日の気分によって、よりしっくりくる演奏があるかもしれません。一つの曲に様々な解釈が生まれことによって、多角的に音楽を楽しめるところが、クラシック音楽の強みなのです。

さて、このコラムでヴィヴァルディを取り上げる機会はもうないかもしれないので、最後にこの作曲家についての個人的な思い入れについて書きます。

「グロリア」のような合唱曲やオペラも好きですが、ヴァイオリニストでもあった彼の本領はやはり弦楽合奏曲にあるでしょう。その意味でも「四季」はアイディアの詰まった名曲だと思いますし、「調和の霊感」(L’Estro Armonico)シリーズも代表作といえるでしょう。最晩年に書かれた6つのチェロ・ソナタも素晴らしい。

革新的で深みのある音楽は他に沢山あるかもしれませんが、ヴィヴァルディの作品には音楽を音楽たらしめる要素が過不足なく収まっているのではないかと思うことがよくあります。残りの人生、ヴィヴァルディの音楽だけしか聴けないというシチュエーションになっても、案外楽しくやっていけるのかもしれない(←それは言い過ぎ)。つまり、複数の声部が様々なハーモニーを奏でること、この愉悦に勝るものはないのではないかと思うのです。

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